「くそっ、どいつもこいつも、人の知らないところで好き勝手やりやがって……!」
夜の双町を駆ける。余裕なんて皆無なので黒鎌を片手に、民家の屋根を足場に拝借して飛んで跳ねて、目的の場所まで急行する。
一体何がどうなっている? そんなこと知るもんか。ミキじゃああるまいし、何でもかんでもお見通しというわけにはいかない。それが当たり前なのに、そんなの簡単だよーとか言ってのける鬼女が側にいやがるから、嫌がらせの如く俺に不幸が降り注ぐんだ。
――不幸、不幸か。
そして、何の因果か、その落とし前を俺がつけてやろうと今息巻いている。
どういうことだ。何だこれは。この状況を説明できるならここにきてやってみろおい誰か。どんな喜劇だ。
ごすん、とどこかの誰かさんの屋根をぶち抜いた音がしたが気にしない。雨漏りくらいするかも知れないがその程度は優しい日曜大工のお父さんにでも直してもらえ。今の俺は一切合切それどころではないのだから。
時刻は零時を回ろうとしている。いつの間にか暗雲立ちこめる真夏の夜、全速力で街を縦断していく。蒸し暑くって気持ち悪い夜だったが、そんなこと気にもならない。
それ自体は慣れた行為だ、眠っていてもできそうなくらいで、だから、意識は別のところに飛んでいく。
三日間。顔を合わせていた時間はそれなりだったが、それでも短い期間だった。一年もすれば、そんなこともあっただろうかと忘れてしまいそうなくらい短い、儚い夏の記憶だ。
それでも、何か、心の奥に刺さるものがある。――それすらもミキの思惑通りだったと判明した今にしてみれば忌々しいことこの上ないが、それでも――
――せっかく、見えかけてたのに……!
――手に入るかも知れないって、そう思えたのに……!
また頭痛がしてきやがった。
心なしか背中の方まで痛みが走っている。
駆ける。駆ける。空を飛ぶように高く、宙を舞うように疾走する。
意識は更に深いところへと潜っていく。一日、二日、更に昔へ。記憶は過去を映し出し、明瞭に分明に、感覚を移行していく。
――記憶は二週間ほど前に遡る。それは思えば、一本の電話から始まった。