名無しの -序-


「―― ミカヅキ 千里馬 チリマ 君、だね」


 月のない夜。星すら怯え隠れた漆黒の闇を背に、彼女は俺を見下ろしていた。


「早速で悪いんだが、死んで貰えないか」


 喰われた月に、自らが代わるかの如く妖艶に光る、純白の髪。芸術品のように可憐で、この世のものとは思えない程無垢な容貌。赤の人外――酷薄の殺人鬼が眼前に迫る今も尚、俺はその一点から目を離せずにいた。


 ――ああ、なんて、美しい――