Gracial Jardin -0-


 溢れ続ける血潮と共に流れ出すように、その体温は瞬く間に失われていった。

 腕の中で、虚ろな目をした男が、いよいよその瞼を閉じようとしていた。

 その神秘的な碧眼の輝きが、何より愛おしかったのに。

 その瞳が最早、何も映してはいないことに、奈落の最果てを俯瞰するほどに絶望した。

 なぜ。

 一体何故、このようなことになったのだ。

 愛しい人とただ二人、平穏に暮らしていられたらそれで良かったのに。

 一族の誇り?

 信仰の果てに至る理想郷?

 なんだそれは。なんなのだ。

 そんなもののために、何故我らは朽ち果てなければならないのだ。

 血も。空も。全ては、我らを生かすための装置でしかないはずだろうが。

 どうして我らが、その道具ごときに殉じなければならないのだ。

 かみよ、ああかみよ。この悪辣な趣向が神意だというのか。この結末が、汝に背いた神罰だとでもいうのか。その座より我らを玩弄することが、汝らの言う正義であると嘯くのか。

 許さぬ。

 認めぬ。

 断じて受け容れぬ。

 それが運命だというならば。我は人を捨て、真の悪鬼へと変じよう。汝らが我をそう呼んだように。かくあれかし、かくあれかしと、この身を外道へと投じよう。


 満天下に広がれよ、無間の氷原。

 白く、白く。

 蒼く、彼方へ。

 我は大紅蓮を統べる者也。


 ――時よ、止まれ。